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海外の不動産はまだ処女地

2017年6月2日「金曜日」更新の日記

2017-06-02の日記のIMAGE
 新聞をひらくと、毎日のように日木の企業がアメリカに行って大きなビルを買った記事が載っている。ある新聞などはロサンゼルスのメインーストリートの全景を写真に撮って、その中で日木人が買ったビルに一つ一つ日の丸の旗を立てて、どれだけの高屑ビルが日本人のものになったか、一目でわかるような図解をしている念の入ったものもある。  あれを見ると、この数年にいかに日本人の対米不動産投資がふえたか、一目瞭然である。もし土地を買うことが他人に自国の大切な国土を占領されたと感ずるなら、アメリカ人はかなりの被害者意識を持ち、日本人の進出に対して反発をするところであろう。おそらく日本人の中にはそういう受け取り方をする者が多いに違いない。かりに、銀座通りや青山通りのビルを片っぱしから香港の金持ちたちに買い占められたとしたら、黄色い手にかかって「日木の国が植民地化している」といって人騒ぎをするに違いない。  現に日木の代議士の先生方の中にも、「アメリカ人の感情を逆撫でするような海外投資はやめてほしい」と知人たちに憂国の文書を出した人がある。いかにも日本人らしい考え方だなあ、と私は感心もし、びっくりもしたが、アメリカ人はそういう具合には反応しない。  石油ショックの直後、オイルーダラーで成金になった中近東の金持ちたちがロスのビバリーヒル周辺の目ぽしい建物を片っぱしから買い占めたが、そのときも、「アラブのおかげで不動産が高くなったなあ」といったていどの反応で、「アラブの奴らはけしからん」とはいわなかった。もともとアメリカは人種のルッボみたいなところで、世界中からの移民によって成り立った国である。何国人なら不動産を買ってもよいが、何国人は駄目だといった考え方はない。 アメリカ人と言われる人々でも、もとは旧人陸から移住してきた人たちであって、早く来たか、あとから遅れてやって来たか、の違いがあるだけである。アラブや、続いて日本人がニューヨークやロスの目ぼしい建物を次々と買ったとしても、あとからやってきた連中のほうが元気がいいなあ、と感心するだけのことである。     しかし、もちろん、日本の企業がドンドンとアメリカに乗り込んできて、これだけ盛大に不動産投資に力を入れているということは、日本人の目から見て、アメリカは有望なマーケットであり、将来性があるからであろう。と同時に、日本人の不動産のプロたちから見て、東京や大阪などの不動産は既に常識を逸した価格になってしまい、もはや投資の対象ではない、と考えられているということでもあろう。  東京の土地の値上がりは、冒頭の章でも述べているように、日本人の常識から見てさえベラボーなものになっている。それを時価で仕入れて建物を建てて人に貸したのでは、銀行利息にすらならない。それでもなお買う人がおり、地価が維持されているのは、第一にそれだけ遊資が日本に集まっているからであり、第2に採算的に合わなくとも、税金に支払う代わりに金利に払うことができれば、お金の儲かっている企業にとって節税になるからである。  したがって土地が値上がりをして行く段階で、土地ころがしが可能な間は、プロの不動産業者も、土地の投機にいくらか首を突っ込むことができたが、土地を仕入れて加工して分譲マンションとして売ることのできない地価まであがると、いずれも手をはなして傍観するよりほかなくなった。一流不助産会社の中には、暴騰のさなかに、地あげ屋を使って土地を買い漁ったものもあるが、それは坪3000万円で土地を買い漁っているわけではなく、虫食いになったところを坪3000万円で手に入れることができれば、周辺に坪300万円で買った広大な土地が3000万円になるという計算があったからである。その後、そういう土地の地価でも、5000万円とか、8000万円とか、あるいはそれ以上に値上がりをしたが、プロの業者にとっては、土地の値段は 3000万円の時点で既に採算をはずしている。  そういう業者たちにとって、日本国内の大都市では、地価の安い時から手がけているプロジェクト以外、これといった魅力的な新しいプロジェクトは考えられなくなってしまった。しかし、東京の不助産が大幅な値上がりを見せたおかげで、手持ちの不動産の評価が5倍にも10倍にもふくれあがり、担保力が増大しただけでなく、折からの金融緩和によって絶大な資金動員力をもあわせ持つようになった。世界中どこでも、有望な市場さえあれば、進出のできる資金的背景はととのったのである。

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