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住まいと文化

2018年9月7日「金曜日」更新の日記

2018-09-07の日記のIMAGE
<住む人で住まいは変わる――家を世話する仕事に大きな意義私達が業いとしている住宅産業・不動産業の仕事は、文化に密接に関わっており、重要な仕事でもある。文化というと大げさに聞こえるが、人が住み、生活し、活動した所には、文化の跡が残される。普通に生活している時にはそんな事は考えないが、人間が去った後や廃墟と化した跡を見れば、そこは住んでいた人の人柄や個性が感じられる。私は海外に旅立つ時は成田国際空港を利用するが、この空港の敷地と私は浅からぬ因縁がある。もう35年も前のことだが、当時私は不動産会社に勤めており、千葉県印旛村で地上げの仕事をしていた。約40万㎡の山林を6人で買収していたのであるが、その中の地権者に空港予定地の駒井村の地主が7人いた。その人達に土地を売ってくれるよう、私は何回も通ったが、その村の小川が第2空港ビル駅近くの沿線にあり、車窓から数秒間見える。川と田んぼと人植者の家。この何でもない風景の中に、私は強烈な印象を持つ。当時の役人の土地買収は強力なもので、資金も潤沢を極めていた。時価3千万円足らずの畑や屋敷を買い上げ、その代償として1億円以上の代替地と補償建築代を出していた。そのような地主の所へ民間会社の私か乗り込んだのだが、私の方は均一買収単価に特別資金を上乗せするとしても、せいぜい2割増が限度。結果は散々で、成約に至らなかった。その後空港予定地のいわゆる成田闘争が始まるのであるが、その中身の一部を知り得た私の気持ちは複雑である。意固地に開業の邪魔をしている反対派を、一方的に悪く言う気もない。また、住まいは住む人によっても変わる。私の母は父が死んだ後で屋敷の植木をバサバサ切ってしまい、家の形も変えて、開放的にしてしまった。それを見てびっくりしたものだが、おそらく一度しかしてない海外旅行の、ハワイのリゾートのイメージでも描いたのだろうか。母の実家も原因はいくつかあるにしろ、平成と共に始まった都市集中、農村過疎化の波に押されて、廃虚と化している。そのうっそうと荒れ果てた屋敷跡に立つと、叔父叔母のなつかしい声や、家畜の群れが雑草や林の向こうに見える。ここに人々が住み、文化があったのだと、しみじみ考える。この事は裏を返せば、人間の住み家だから大事なのであって、住まいこそ文化なのである。私達は家を建てたりアパートを世話したりしているが、これはとても大切で意義のあることであり、軽々しく考えてはならないことだと思う。

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